広告費の功罪 悪循環により作り上げられるのは負動産


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  • 広告費の功罪 悪循環により作り上げられるのは負動産 2018-07-30



    先日とある相続関連の書籍を読んでいる時にこんな記述をみつけました。
    「家賃を下げずに入居率を上げるためには、仲介業者に払う広告費を多くするべし」

    その書籍は危険な相続対策について警鐘を鳴らすような内容のものだったので、その記述には少し驚きました。
    広告費とは賃貸物件の成約時に、オーナーから仲介業者へ支払われる報酬の事。
    宅建業法上、仲介業者が受け取れる仲介手数料の上限は賃借人、賃貸人の双方からあわせて1か月分と定められています。
    そこで、この上限以上の報酬を貰うために、オーナーから受け取る報酬を「広告費」と名前を変えています。

    この広告費とは、確かに判例で仲介手数料と別途受け取ることができると定められているものです。
    しかし広告費を受け取る場合、仲介業者が「特別な広告」を実施していることが要件となります。
    例えば、大手新聞への物件情報掲載などがそれにあたり、通常のポータルサイトへの物件掲載等では「特別な広告」にあたらない可能性が大。

    とはいえ、現状多くの賃貸物件に広告料が設定され、賃貸の流通において最早暗黙の了解のように扱われています。
    多くの賃貸仲介業者の営業マンが、個人ノルマを抱えていたり、歩合制による給与制度が設定されていることから、広告料を多く支払うというのは確かに一定の効果があるものと考えられます。
    1月当たりに仲介できる件数が限られている以上、単価を上げたいと考えるのは当然です。

    極端な話、広告料が設定されている物件とされていない物件でお客様が悩まれていた場合、広告料の無いほうの物件を「潰す」ようなトークをしないとも限りません(そんな人いないとは思いますが)。

    もっと言ってしまえば、最も営業マンに喜ばれる報酬は「個人バック」といわれるもので、営業マンの所属する会社に対して報酬を支払うのではなく、営業マン個人にこっそりと「袖の下」を渡す事です。
    給与制度が歩合制であれば、その多くは仲介によって得た報酬の合計金額に企業ごとの割合を掛ける事で収入が決まります。
    そのため、100%自分の収入となる「袖の下」をくれるオーナーさんは好かれ、営業マンは何とかその物件を決めようとします。

    もちろんこの個人バック、営業マンが勤める会社にばれたらただではすまないでしょう。
    もともと会社のものになるはずだった収入を個人で得たとなれば、何らかの処罰が下されることは想像に難くありません。
    実際に空室をなくす事だけを考えれば、オーナー様にとっては確かに効果がある、といえるでしょう。


    しかしこの広告料等の報酬をふんだんに支払い、営業マンに恣意的な営業をさせることは、賃貸人にとっても賃借人にとっても不幸な循環を生むと考えます。

    この広告料による成約率アップは一時的なドーピングの様なものです。
    物件の持つ価値が足りない分、営業マンに報酬を渡し成約率を高める事は、物件の価値を高める事をストップしてしまいます。
    もしくは、現状の家賃が相場から乖離してしまっているにもかかわらず、ドーピングをし続けてなんとか入居率を確保する方法はいつか限界を向かえます。

    様々なポータルサイトで物件情報の入手が可能な現代において、入居後賃借人による周辺物件の検索は高確率で行われます。
    そうすると、相場から乖離した物件と同額でもっと良い物件が見つかってしまいます。
    転居費用がもったいないから1年は住むけど、その後は同じ家賃のもっときれいな所に引っ越そう・・・
    そう考えるのが自然ではないでしょうか。

    回転率が上がってしまった状態の物件で、跳ね上がった広告費を支払い続けることが本当に収支上有効といえるのでしょうか?
    限界がきて収支が悪化仕切った物件を購入する投資家は本当に発掘できるのでしょうか?

    そこまで見越してのアドバイスとは思えません。
    賃貸経営や相続対策は5年、10年スパンで考えるものです。
    その場がしのげれば良いという対策を勧める事は、甘い計算表で賃貸アパートの建築を促す営業マンと何ら変わらないのではないかと思います。


    この他のにも、とある書籍では「一般社団法人の活用が究極の相続税の節税対策」になりえると紹介されていました。
    当該書籍が出版された当時は、確かに一般社団法人に移転された資産は相続財産から切り離され、移転コストさえ負担すれば今後無税で承継が続けられるようなスキームが可能でした。
    しかし明らかに立法目的を逸脱するスキームであるため、将来的に法改正等で対策がされるのではないかと危惧する専門家も当時から存在しました。
    そして実際に法改正によって当該スキームは不可能になり、移転コストの払い損になった方もいらっしゃいます。
    (収益の分散効果なども期待できるため、法人化が全くの無駄ということはありませんが)


    相続対策については、様々な情報、意見が日々発信されています。
    極端な内容の話は鵜呑みにせず、セカンドオピニオンとして別の専門家にも意見を求めたほうがいいかもしれません。


    ページ作成日 2018-07-30