相続税対策の王道『贈与』の基礎と特例とは?


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  • 相続税対策の王道『贈与』の基礎と特例とは? 2019-10-25

    相続税の節税対策の実行方法の中で最も取り組みやすいのは『生前贈与』です。亡くなる前に財産を渡すことで、相続税の課税対象となる財産を減らすことができる王道とも言える方法です。
    人生100年時代を迎える現在、国は「高齢者の資産がより早く次世代に移転されれば、資産は有効活用され経済活性化に繋がる」とし、通常の暦年贈与に加えて、住宅取得に充てるものや教育資金、結婚資金などに充てる場合には各種の特例を設けて生前贈与を推奨しています。
     
    以下、各贈与の制度概要及び活用方法について説明していきます。


    (1)暦年贈与
    暦年(1月1日~12月31日まで)の贈与金額が、贈与された人1人あたり110万円までは非課税となります。
    渡す側それぞれで110万円が非課税となるわけではありませんので、注意が必要です。
    もらったお金についての用途などの制限は課されていないのが特徴で、自由に使うことが出来ます。なお、贈与金額が年間110万円の基礎控除を超えた場合には、超えた金額に応じて、累進課税で贈与税がかかってきます。
    また、複数年にわたって、非課税枠である110万円以下の金額での贈与を行った場合には、贈与税は課税されません。
    暦年贈与の注意点としては、贈与はあくまで契約であるため、一方的な贈与(例えば親が子名義の口座を勝手に作り、子の知らないところで贈与を行う)は法律上、贈与とみなされず、無駄な行為となる可能性があります。財産をあげる、もらう、といった意思表示を示す贈与契約書などを作成し、財産をもらった側で通帳や印鑑を管理している状態にしておきましょう。
     
    (2)相続時精算課税贈与
    こちらの贈与は贈与者が亡くなった際に、この制度の特例を活用して行った贈与は贈与した際の価額で、相続財産に持ち戻され相続税が課税される、という制度です。特徴は、非課税枠が2,500万円と高額であり、その金額に達するまでは贈与税が課税されないことです。
    しかし、こちらの非課税枠は、同じ贈与者からの贈与は通算されるため、例えば1年目に1,000万円の非課税枠を使用した場合は、2年目以降は1,500万円が非課税限度額となります。
    2,500万円を超えての贈与を行った場合には、超えた金額に対して一律20%の贈与税が課税されますが、ここで支払う贈与税は将来相続税の申告をする際に差し引くことが可能です。
    注意点としては、こちらの特例は一度選択してしまうと暦年贈与に戻すことが出来ません。
    従って、この制度を選択してしまうと、同じ贈与者からの贈与については年間110万円の非課税の枠が使えなくなってしまうため、注意が必要です。
    メリットとしては、こちらの贈与を活用して贈与した場合には将来相続財産に持ち戻しとなりますが、相続時に価値が上がったとしても贈与時の価額での持ち戻しとなります。
     
    (3)おしどり贈与(配偶者贈与の特例) 
    婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用の不動産又はその購入資金を贈与した場合には年間2,000万円までは非課税となります。通常の暦年贈与の非課税の枠と併用が出来ますので合計で年間2,110万円までは非課税となります。こちらは夫から妻、妻から夫のいずれの贈与でも構いません。
    なお、贈与を受けた人は翌年の3月15日までに贈与された不動産、ないしは、贈与された資金で購入した不動産に居住する必要があります。また、その他の注意点としてはこちらの特例は贈与税の非課税枠に収まっても贈与税の申告が必要となることです。
     
    (4)障がい者への贈与
    障がい者の経済的な安定を図るための税制上の優遇措置の一つとして、金銭や有価証券などの財産を信託会社や信託銀行などに信託した際には、特別障がい者については6,000万円、特別障害者以外の方については3,000万円を限度として贈与税が非課税となります。
    こちらの特例の特徴は、贈与する人(委託者)と信託銀行など(受託者)との間で障がい者(受益者)のための信託契約を締結する必要があります。
    なお、非課税を受けるための申告書については、一般的には信託銀行などを通じて税務署に提出されます。
    この財産は障がい者の生活費や医療費などとして定期的に金銭が支払われるものとなり、もし、両親などが亡くなった場合でも信託銀行などが引き続き財産を管理・運用し、生活のための資金を交付することが可能となります。
     
    (5)住宅取得資金贈与
    令和3年12月31日までに親や祖父母から住宅を取得するための資金を贈与された場合には、最大3,000万円までは非課税となります。
    なお、非課税の限度額は住宅取得の契約締結日に応じて、以下の表の通り定められています。

    また、この贈与については受贈者の贈与を受ける年の所得金額が2,000万円を超える場合にはこの特例の適用を受けることは出来ませんので注意が必要です。
     
    (6)教育資金贈与
    令和3年3月31日までに30歳未満の方が親や祖父母から教育資金に充てるため、一括で贈与を受けた場合には、もらった方1人につき最大1,500万円までは非課税となります。
    このうち、塾や習い事などに充てるものについては500万円までが非課税となります。
    教育資金の考え方としては、扶養している親族が支払うべき教育費については金額がいくらであっても贈与税は課税されません。
    しかし、基本的にはその都度の贈与が必要となり、また、教育費としてその年中に使用されることが求められます。この制度では、本来であれば複数年にわたって分割で支払う必要がある教育資金を一括で支払うことが出来る、といった特徴があります。
    また、本制度での贈与は将来贈与者に相続が発生したとしても相続財産への持ち戻しの対象にはなりません。こちらは贈与者が贈与を行った後、3年以内に相続が発生した場合も同様の取り扱いです。従って、財産を多くお持ちの高齢の方がこの特例を活用する場合には十分にメリットがあるかと思います。
    一方、注意点としては、この特例で贈与された財産はその名の通り教育資金としてのみしか利用ができません。他の目的で使用した場合には、贈与税の課税対象となります。また、贈与を受けた者が30歳に達した際に教育資金として使いきれなかった残額があった場合にはその使い切れなかった金額に対して、贈与税が課税されることとなります。
     
    (7)結婚・子育て資金贈与
    令和3年3月31日までに20歳以上50歳未満の方が親や祖父母から結婚や子育て資金に充てるため、一括で贈与を受けた場合には、もらった方1人につき最大1,000万円までは非課税となります。このうち、結婚のための資金(結婚式の費用など)については300円までが非課税となります。
    こちらも教育資金と同様の考え方で、扶養している親族の結婚費用や出産などの子育て費用は金額がいくらであっても贈与税は課税されません。しかし、基本的にはその都度都度の贈与が必要となり、また、その年中に使用されることが求められます。この制度も教育資金贈与と同様に、本来であれば複数年にわたって分割で支払う必要がある結婚子育て資金を一括で支払うことが可能である、といった特徴があります。
    ただし、こちらの贈与の注意点は上記の教育資金贈与とは異なり、贈与者に相続が発生した場合には、その贈与を行った金額のうち、未使用分は相続税の課税対象となってしまうことです。従って、こちらの制度は残念ながら高齢者の方の駆け込み贈与の対策としては活用が出来ないこととなります。また、50歳に達した際に残額があった場合にはその使い切れなかった金額に対して、贈与税が課税されることとなります。
     
    相続税対策をお考えの方は通常の暦年贈与だけでなく、条件に当てはまる場合はご紹介した贈与の各種特例の活用を検討してはいかがでしょうか?


    ページ作成日 2019-10-25