家族信託の組成を検討する際に、重要な要素の一つとして、委託者/受託者双方の意志能力の有無があります。
家族信託は契約によって有効に成立します。
しかし意志判断能力が無い者が締結した契約は、民法上”無効”になってしまいます。
そのため、信託の組成を検討される場合は、委託者/受託者双方に意志判断能力がある事が必要です。
意志判断能力が欠如してしまう要因の一つが認知症です。
家族信託の組成ニーズとして最も多いのが認知症対策としてのニーズ。
そのため、このような質問をいただく事がとても多いのです。
「両親がすでにちょっと認知症っぽいんだけど、信託は使えますか・・・?」
1、意思能力とは
意思能力とは、自らの行動の結果を正常に判断できる能力と定義されています。
有効に契約、取引をするためにはこの能力が必須条件です。
意思能力を欠く者がした契約は当初から無効です。
意思能力の有無は、一律の基準があるわけではなく、個別具体的に判定が必要になります。
例えば普段は意志能力に全く問題が無い人でも、泥酔時は意思能力を欠く状態と判定されることがあります。
意思能力の有無は、契約時点での状態で判定されるのです。
2、意志能力の判定者
それでは、信託組成の際に意志判断能力の有無を判定する役目は誰になるのでしょうか。
まず最初の段階では、その役割を司法書士が担います。
司法書士は契約当事者と面談し、契約の意思確認を行った上で信託登記を行います。
この点は通常の不動産の売買と同じですね。
司法書士が実際に契約者と面談をして意思確認をし、その結果問題ないと判断されれば登記申請が可能です。
契約書を公正証書にする場合、公証人がその役割を担うことになります。
確認方法としては契約当事者が契約の内容、結果を理解しているか、実際に話して確認する形ですが、
司法書士と公証人の関係性によっても質問内容等が変わってくることもあります。
司法書士や公証人が判断に迷った際に、医師の診断書が求められることがあります。
この段階で初めて医師が登場するわけです。
信託契約の際の認知症の判定について、最初から医師が登場すると思われている方が多いのですが、実はそうではありません。
医師の判定方法は、面談の他に、筆記テストを用いる事が一般的です。
「認知症 長谷川式」などで検索すると、テスト内容のサンプル(意外と難しいです)が見られます。
3、信託組成にベストのタイミングとは
上記のように、たとえ認知症の症状が出始めていると診断されていたとしても、直ちに信託の組成が不可能になるわけではありません。
認知症の症状で記憶能力に障害が出る事がありますが、それによって契約の意思表示や内容の把握ができなくなるかは個別に判定が必要になるのです。
とはいえ、認知症の進行スピードは人によってあまりにも違い、初期症状が出始めてからどの程度猶予があるかは全く予想がつきません。
例えば実家不動産の売却について、認知症の不安がある場合は可能な限り速やかに信託契約を締結することをお勧めします。
信託の内容については変更も可能なので、場合によっては二段構えの設計も必要になるでしょう。
家族信託の一番メリットは、その検討段階でご家族が資産の管理、承継について話し合う家族会議の場が設けられる点にあります。
是非ご家族の皆様がご健康な時にこそ、検討に着手していただきたいと思います。
ページ作成日 2018-09-09